実験やめたった シマエナガ編

劇団「実験やめたった」の活動報告

某バンドサークルのコンピアルバムVol5の解説とコメント(その2, 14曲目)

はじめに

 第2回目として、14曲目、ウルトラハッピーソング by テレフタリック を解説していきたい。筆者は当初、このシリーズ企画で曲の解説をやっていくのに、アルバムの頭から順番にやるべきだと思った。しかし、この曲が日常の筆者の脳内で常に鳴っているほど好きすぎて早速コード進行を解析したので、第二回目にこの曲を紹介することにした。

 

この曲の良い点

 この曲の何が良いかと言うと、まず音が綺麗なこと。全部の楽器の音、特にボーカルがとてもクリアに録音できている。綺麗な音で聞こえるのは録音のテクニックもさることながら各メンバーの演奏が上手いからである。


 またバンドの世界観がしっかりしていることが良い。音づくり、歌詞、曲の雰囲気などハッピーな感じがよく出ている。


 そして音楽理論的な観点から言うと、ルート音の選び方、9度、7度の音の使い方など和音の作り方が良い。


 いっぽう、だからこそ、コード進行について、コードの定義をはっきりさせたらもっと良いという点、別のコードを割り当ててもいけるだろうと思う点もいくつかある。そこで筆者は、(勝手に)先程言った音作りの良い部分のコード名と聞こえ方を対応させて説明するための動画を作った。そして動画の後半では、筆者なりのコード進行の代替案を(完全にお節介だが)言わせてもらうこととする。このように筆者が代替案を公開するのは、若い衆がコード進行の設計で迷った時にこうやってしっくり来るコードを探すんだと、コードの割り当ての候補は何通りかありえるんだと、さらにその際、音楽理論の知識を持っているとコード探しに役に立つんだという具体例として示したいがためである。

 

 というわけで、この曲のコード進行を解析していく。この曲の調は、楽譜で書くとフラットが4つの変イ長調である。

 

イントロ

 この曲はまずイントロが良い。そのコード進行はこうなっている。


Ab . Abadd9 . Fm . Fm(11) .
E . . . Eb . . .

 

 コードに付いている数字は、「ルートの音に対して何度上のインターバルにある音を追加するのか」を指定する数字である。基本的なコードに数字は付いていなくて、こうした数字の付いたコードは原則的には不協和音になるのだが、ちょっと変わった響きを使うことで、普通と違う新鮮な感じを出したり、安定したコードが鳴った時の着地感を一層強くすることが出来る。


 さて、イントロの前半では、ギターが ラb とシb の音を鳴らしている。このシb の音は、ルートがラbの時には9度の音となるし、ファならば11度の音になる。この響きが曲に清涼感を出している。そしてこの次に突然Eのコードが入って、(これは変イ長調の音には無い音を多分に含んでいるので異物のようなものであるが、)この一時の転調ののちに、半音下がってドミナントのEbになり、Aメロの頭でトニックのAbに綺麗に着地する。結果的にこの流れの起点となるEのコードが気持ちの良い気分の転換になっている。

 

Aメロ(二回目)

 Aメロ(二回目)のコード進行を見てみる。


Ab . . . BbmonG . Cm? .
Fm . . . Ebm7 . GbonAb .
AbonDb . . . Cm7 . . .
Bbm . . . ファミファソ

 

 2度の順次進行と5度のダイナミックな動きが多用されている。そして7度の音の使い方もうまい。特筆すべきは3行目の頭のAbonDbのコードで、トニックのAbの下にDbが配置されている。前後のベースの動きを見ると、Abから完全4度のDbになり、その後Db→C→Bbと順次下降する動きをしている。これが絶妙である。

 

サビ直前

 もう一つ特筆したいのは、サビ直前のコードのEb +9。 この音はサビに着地する前の布石として不安定でトリッキーな響きを出しており、サビのトニックへの解決感を一層強く演出している。

 

というわけで動画で見ていただこう



…とここまでやったあとで、(筆者も知っている世代の後輩の)ぴーもえさんとりょうへい君がメンバーだったということが分かった。良い曲なので、是非歌い継がれていくことを願っている。

 

 

(つづく)